深く静かに広がる、高脂血症(脂質異常症)の恐ろしさ。

高脂血症(脂質異常症)、「脂質」の基準とは

高脂血症とは、「血液中の脂質が基準となる正常値より高い、ないし低い状態」を指します(なお2007年7月から、名称が「脂質異常症」に変更となりました)。

厚生労働省の調査によると、脂質異常症で治療を受けている有病者数はおよそ206万人(2014年度)となっています。女性の有病者が男性より多く、約150万人(男性の約2.5倍)に達しています(脂質異常症 e-ヘルスネット(厚生労働省))。

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血液中には「コレステロール」「中性脂肪」「リン脂質」「遊離脂肪酸」の4種類の脂質が溶け込んでいます。


これまで血液中の脂質は「総コレステロール値」、そして肝臓から組織にコレステロールを運ぶ悪玉の「LDLコレステロール値」、組織からコレステロールを肝臓に戻す働きをする善玉の「HDLコレステロール値」、そして「中性脂肪」の4つの基準を使い判断されてきました。


しかし、善玉の「HDLコレステロール値」が低い場合(これも注意すべき「脂質異常」です!)も「高」脂血症と呼ぶのが適切ではない、ということ、また外国での記載と統一したいということもあって、現在は「脂質異常症」と呼ぶのが正式になっています(ただしここでは、まだ「高脂血症」の呼び名がなじんでいる現状から「高脂血症」の呼び名も併用します)。

中高年層のみならず、若年層・子供においてすら、健康診断で「高脂血症の疑い有り」との診断を受ける人が年々増えているのです。


サラリーマンの方で、健康診断の返送結果に「高脂血症の疑いあり、日常生活で経過観察を要します」などのコメントが添えられていて、ドキッとした方も多いのではないでしょうか?しかし高脂血症になったとしても、特別痛みがあるわけでもなく、これといった自覚症状があるわけでもありません。


それでは高脂血症になった場合、いったい何がよくないというのでしょうか?

動脈硬化と合併症の発症要因


まず高脂血症が続いた場合、「動脈硬化」が起こりやすくなります。

「動脈硬化」にもいくつか種類がありますが、読んで字の如く、脳動脈や大動脈のような太くて重要な血管が「硬くもろく」なってしまうことで血液の流れが悪くなり、最終的には「脳梗塞」「狭心症」「心筋梗塞」等へと症状が進んでいきます。


これらが単独の病気として発症することもありますし、様々な他の病気との合併症として起こることもあります。

まさしく高脂血症は、この恐ろしい「動脈硬化」の原因なのです。



さらに、高脂血症は、「高血圧」「糖尿病」を合併するケースが多いことも特徴的です。

高脂血症によって動脈に異常をきたすことから、これら以外にも様々な合併症、たとえば「腎不全」「高尿酸血症(通風)」「コレステロール性胆石」「大動脈瘤」といった病気を併発するリスクも高くなります。


かように恐ろしい高脂血症ですが、主に肥満・食べ過ぎ・運動不足・喫煙・飲酒など、いわゆる「生活習慣にかかわる乱れ」が、その発症の原因とされています。


高脂血症であることは、まさに現在日本に約5,400万人いるとされる「メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)」ないしその予備軍に属することにもなるわけです。

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もっとも高脂血症(脂質異常症)には、生活習慣に関わらない、遺伝的理由によるものもあります。


家族性(原発性)高コレステロール血症」は、生活習慣に関わらず遺伝的要因により、LDLが異常に高くなる病気です。

「LDLコレステロールの数値が幼少期から異様に高い」「手の甲や肘・ひざ・アキレス腱等に盛りあがった黄色腫が見られる」「若くして心筋梗塞や狭心症の発症経験がある」「両親(のいずれか)が家族性高コレステロール血症である」等が、その診断基準となります。


しかしながら「家族性高コレステロール血症」は見逃されやすく、かつ確定診断の難しい病気となっています。

この病気では動脈硬化が速く進行し、また加齢に伴い急激に発症率も高まるため、思い当たる症状がある場合は早急に専門医の精密検査を受ける必要があります。


他にも甲状腺機能低下症・糖尿病・腎臓病等の病気や、ステロイドホルモン・降圧剤・避妊薬等の薬の使用が原因となって起こる、「続発性(二次性)」のものもあります。


いずれの場合も高脂血症には自覚症状がないことから、健康診断時の血液検査などで指摘を受け、はじめて気づくケースが一般的のようです。


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高脂血症(脂質異常症)の診断基準

高脂血症(脂質異常症)は、血液検査の数値によって判断されます。脂質の種類によって、以下のタイプに分けられています。


高LDLコレステロール血症
  ⇒LDL(悪玉)Lコレステロールが140mg/dl以上の場合 
低HDLコレステロール血症
  ⇒HDL(善玉)コレステロールが40mg/dl未満の場合 
高トリグリセライド血症
  ⇒トリグリセライド(中性脂肪)が150mg/dl以上の場合 


おおまかに言えば、血中に占める脂質が「コレステロール値の異常によるものか」それとも「中性脂肪が高いことによるものか」で区別されているわけです。

コレステロールについては、関連サイト「コレステロールを下げる 3分レッスン」もご覧ください。)


なお以前は「総コレステロール(TC)値」が用いられていましたが、動脈硬化性疾患のリスクが正確に判断できないこともあり、現在は診断基準からはずされています


ちなみに、前述の診断基準に該当したからといって、ただちに薬物療法を開始するということにはなっていません。

投薬による治療は、あくまで「他の危険因子も考慮に入れて」行われることになっています。

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治療は二段構え~食事と運動が主、薬物療法は従

高脂血症の治療の基本は、「食事療法を中心とした生活習慣の改善」と「薬物治療」が二本柱となりますが、高脂血症は完全に治すのがなかなかやっかいな病気といわれています。


薬物治療では「LDLコレステロールを減らす薬剤」や「中性脂肪を減らす薬剤」を使用しますが、薬物治療だけで完全に治すことはできません

しばらく節制して数値がいったん改善しても、その後生活習慣が元にもどってしまったような場合は、再び高脂血症になってしまうケースも珍しくないのです。


さて、高脂血症の基準値に該当した場合、さらに詳しく検査をし、動脈硬化の危険性などを調べたうえで、治療に入ることになりますが、一般的には二段階で治療方針が設定されます。


「第一段階」と「第二段階」の二段構えで脂質関連数値の目標をそれぞれ設定し、生活習慣の改善や薬物治療を通じて、それに近づけていくやり方がとられます。


まず「第一段階」では食事療法と運動療法が主体となり、薬物治療は無しか、あくまで補助的位置づけでの使用にとどまります。

「第一段階」で血清脂質が目標値に達しない場合は薬物治療を並行して行い、食事療法も制限をより厳しくした「第二段階」へと進むことになります。


高脂血症の薬は一般に1ヶ月程度で効果がみられますが、その後も服薬を続けるかあるいは投薬を終了するかどうかは、並行して行われている食事療法等がどの程度の効果をあげているかによっても、変わってきます。


上で述べた「LDLコレステロールを減らす薬剤」と「中性脂肪を減らす薬剤」のどちらを使うかは、「LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪の中で、どの数値が異常なタイプの高脂血症なのか」によって異なります。

このうち中性脂肪値の異常については(極端に高い場合を除き)一般には食事療法が優先され、薬はあまり用いられません。

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LDLコレステロールを減らす薬剤」の中で最も使われている薬は「スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)」です。

これは肝臓内のコレステロール合成に関わる酵素のはたらきを抑えるもので、通常1日1回服用する経口薬です。


長期間の服用が可能で副作用が少ないこともあり(ただし服用後は、定期的な血液検査による経過観察が必ず行われます)、LDLコレステロールを低下させる効果がもっとも確実に期待できるため、投薬治療ではまず最初にスタチンが検討されます。


スタチンには抗血栓作用や動脈硬化の予防など、好ましい「多面的作用」もあるとされます。

また小腸でのコレステロール吸収を抑える「エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害薬)」が2007年から使われており、スタチンと積極的に併用されるケースも増えてきています。2016年に登場した「PCSK阻害薬(エボロクマブ/アリロクマブ)」も、スタチンとの併用により、LDLの数値を大きく低下させる効果があります。


一方「中性脂肪を減らす薬剤」には、中性脂肪(トリグリセライド)を分解する酵素の働きを高めてその合成を阻害する、「フィブラート系」の薬があります。

ただしこのフィブラート系薬剤とスタチン系薬剤との併用は、原則として禁忌です。併用によって副作用(特に「横紋筋融解症」という骨格筋壊死や筋障害等の症状)が出やすくなるとされるためです。


その他にも、「ニコチン酸誘導体」や「EPA製剤」などがあります。 ビタミンBの一種である「ニコチン酸」は中性脂肪値を下げ、脂質代謝を改善するはたらきがあります。またEPA製剤には、青魚に含まれる不飽和脂肪酸と同じ有効成分「EPA(イコサペント酸エチル)」が使われており、血栓を防いだり中性脂肪の合成を阻害するはたらきがあります。


高脂血症の治療薬は、現状において患者が投薬の効果を比較的実感しやすく、全般的に完成度が高いと言われます。

複数の新薬の開発も行われており、将来的な投薬治療の環境は、今後さらに整ってくることでしょう。


さて、上記のような医師の指導によるきちんとした治療を受けるところまでいかないまでも、いわば経過観察中の予備軍の方がすぐに実行に移すことができるのが「生活習慣の改善」、すなわち「食事療法」と「運動療法」を実行することです。

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高脂血症(脂質異常症) 食事療法と運動のポイント

体重 標準体重


食事療法では、まず自分の適正なエネルギー量を計算し、その数値を覚えておくようにします。


高脂血症の人は、一日に必要なエネルギー量以上の食事をとっている場合が多いので、自分の適正なエネルギー量を把握するためです。


算式は以下になりますので、計算してみましょう。


適正エネルギー摂取量=*標準体重×25~30kcal

*標準体重=身長(m)×身長(m)×22


たとえば身長が160cmなら、(1.6×1.6×22)×30=1,680kcal、という感じです。


上記で算出した「自分の適正エネルギー量」に沿うように食事内容を見直していくのですが、ポイントは主に以下のとおりです。


緑黄色野菜


(1)血中コレステロール値を下げる「不飽和脂肪酸」を多く含んだ魚を中心とした食事にする。

肉ならば、脂の少ないヒレや赤みを使うようにします。

よく取り沙汰される「卵」は、摂取によってLDLコレステロール値が上昇する人としない人がいて見解が分かれますが、いずれにせよ一日1~2個程度なら問題は生じないとされています。完全食品と呼ばれる高い栄養価、そして卵白や卵黄にLDLコレステロールを低下させる成分が含まれていること等を考えあわせれば、あまり神経質になる必要はないでしょう。

(2)緑黄色野菜や果物・ナッツ類などの「抗酸化食品」を多くとること。

ベータカロチンやビタミンC・Eがコレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を進めにくくします。緑黄色野菜なら一日220グラム以上を摂りたいところです。

(3)野菜やキノコ、海藻などに含まれる食物繊維を多くとりましょう。

一日30グラム程度はとりたいものです。食物繊維は胆汁酸をくっつけて排せつされ、胆汁酸のもととなるコレステロールを減らしてくれます。

(4)高LDLコレステロール血症の方は、コレステロールの多い食品に注意。

2015年4月に厚生労働省は「食事摂取基準(平成27年版)」を改定し、食品から摂取するコレステロールの上限基準を撤廃しています

ただし高LDLコレステロール血症の方は引き続きその摂り過ぎに注意する必要がありますし、コレステロールの多い食品は「飽和脂肪酸」を多量に含みがちなので、いずれにせよ過剰摂取は控えたいものです。

(5)余分な油分をとらない。オリーブ油を積極的に使い、サラダではマヨネーズやドレッシングの量など、細かい点にも配慮する。

高脂血症(脂質異常症)では、調理油のチョイスには特に注意したいものです。

とりわけ、LDLを増やす一方でHDLを減らすトランス脂肪酸」を避ける必要があります。トランス脂肪酸はマーガリン(ファットスプレッド)やショートニング等に多く含まれます。

食品に含まれる総脂肪酸とトランス脂肪酸の含有量(農林水産省)

前述の「飽和脂肪酸」そして「トランス脂肪酸」はLDLコレステロール値を上昇させる作用がもっとも強いので、これらの摂取は極力控えるようにします。

(6)特にサラリーマンの方は、タバコ・アルコール・残業時の間食にも注意。

喫煙はHDLコレステロールを減少させ、ビタミンCを破壊するなど、いい事ナシです。

何歳から禁煙しても、生活習慣病の発症リスクの低下を確認できたという研究結果もあります。遅すぎることはないにせよ、一刻も早く禁煙するのが望ましいのは言うまでもありません。


アルコールは何であっても、中性脂肪値を上昇させます。日本酒1合弱、ビール中瓶1本でおよそ160キロカロリー、茶わん1一杯分のご飯と同じくらいのカロリーとなるのでおぼえておきましょう。

また、一緒にとるおつまみが特に問題、カロリーの高い脂っこいものや塩辛いものは避けること。

残業時はつい甘いものがほしくなるが、高カロリーのお菓子類を極力減らし、腹もちのよい小さなおにぎり一つなどにとどめておきましょう。



そして「運動療法」ですが、大前提として「食事療法によるエネルギー制限だけでは片手落ち」ということを、よく覚えておきましょう。

栄養を多く摂るだけでは筋肉は増えませんし、食事だけで調節しようとすると、脂肪と一緒に筋肉も落ちていくからです。


運動すると皮下脂肪よりも先に、内臓脂肪が燃えはじめます。また内臓脂肪を多く燃やすことにより「悪玉アディポサイトカイン(血液中に分泌され、身体に悪影響を及ぼす生理活性物質)」が減り、様々な生活習慣病の予防にもつながります。

脂肪やエネルギーの消費効果以外にも、体内で脂肪調節酵素の「リパーゼ」を活性化させコレステロール値を適正にしていく効果や、血圧を下げて動脈硬化を防ぐ効果もあるため、日常生活にできるだけ運動を取り入れたいものです。


ポイントは「できるだけ定期的に、一定時間続けることができるような有酸素運動」を選ぶことです。


ハードな運動までは必要ありませんが、酸素をより多く消費する種類の運動が望ましいため、社会人の方は現実的に考えれば、通勤時のウォーキングや週に数回のプールでの水泳や水中ウォーキング等が、実行可能な選択ではないでしょうか。


また体の筋肉を増やすためには、「筋肉にある程度負荷をかけること」と「睡眠による成長ホルモンの分泌」が必要です。したがって昼寝や夜の就寝前に、簡単な筋力トレーニングを行うことを習慣づけるのも、効果的です。

ただし筋トレには血圧上昇作用があるので、「負荷を最大筋力の4割程度に抑えるレベル」にとどめましょう(運動量が強すぎると交感神経が興奮して、かえって眠れなくなります)。

いずれにせよ、有酸素運動と筋トレの適切な組み合わせが、筋肉をつけつつ内臓脂肪を減らすための最短距離と心得ておきましょう。



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